ネタ帳

数学ネタの備忘録です。

検査陽性のパラドックスと再検査

検査陽性のパラドックスについて。

まずはこちらをどうぞ。


問1 ある国には10^{16}人の人が住んでいる。この国にはXという病気が流行していて、国民は10^{-6}の割合(10^{6}人に1人の割合)でXに感染しているという。
また、Xという病気に感染しているかどうかを判定する簡易検査キットYがある。このキットを使用したとき、本当に感染している人に対して陽性と診断する確率(感度)と、本当に感染していない人に対して陰性と診断する確率(特異度)は、ともに1-10^{-3}(99.9%)である。
Aさんが検査キットYで検査をしたとき、陽性と診断が出た。このとき、AさんがXに感染している確率(陽性反応的中度)を求めよ。

10^{16}人(1京人)も住んでいる国がどこにあるんだとか、そういうところには目を瞑ってください。

実際のところ、この国にいてXに感染している人は10^{10}人です。
そのうち、陽性が出る人は10^{10}-10^{7}人。まあおよそ10^{10}にしちゃいましょう。
陰性が出るのは10^{7}人ですね。
同様に、実際のところXに感染していない人についても考えてみると、陰性が出る人は10^{16}人、陽性が出る人は10^{13}人になります。
まとめると以下の表のようになります。

Aさんは陽性が出ましたが、陽性が出た約10^{13}人のうち、本当に陽性なのは約10^{10}人。つまり、Aさんが本当にXに感染している確率(陽性反応的中度)は約10^{-3}です。


感度と特異度が99.9%という数値なのに対し、陽性反応的中度は0.1%とかなり低くなってしまうのが、「直感とは違う」という意味で「パラドックス」と呼ばれる所以です。
このようなパラドックスが生まれる原因となるのは、Xの感染率が、感度や特異度に比べて小さいことにあります。

一般的な検査陽性パラドックスはここで終わりですが、この記事ではさらに次を見てみましょう。



問2 陽性反応が出たAさんがもう一度検査キットYで検査をしたとき、再び陽性と診断が出た。このとき、AさんがXに感染している確率を求めよ。

再検査をしてみました。これで確率はどう動くでしょうか。

実際に感染している人のうち、2回連続で陽性反応が出る人数は、10^{10}\times (1-10^{-3})\times (1-10^{-3})で、約10^{10}人。
実際は感染していない人のうち、2回連続で陽性反応が出る人数は、10^{16}\times 10^{-3}\times 10^{-3}で、約10^{10}人です。

したがって、Aさんはこの約2\times 10^{10}人のうちの1人ですので、実際にXに感染している確率は約50%です。

こうなると、かなり現実味を帯びた数字になります。
Aさんのおかれた状況をまとめると、

まだ1回も検査を受けていない状態……感染率10^{-6}
1回検査を受けて、陽性が出た状態……感染率10^{-3}
2回検査を受けて、2回とも陽性が出た状態……感染率\displaystyle\frac{1}{2}

となります。微妙な言い方ですが、1回の検査はおよそ10^{3}スケールで的中率を上昇させるという結論になりそうです(この実験では数字を丸めまくってるので、回数を重ねるほど誤差が生じますが)。

1回では的中率が低かった検査も、2回の検査をすると的中率が大幅に上昇する可能性があることがわかります。
感度、特異度がともに99.9%の検査をやっても陽性反応的中度は0.1%しかない!ってのも直感に反しますが、陽性反応的中度が0.1%の検査を2回やると的中度は50%!ってのも、うーんって感じがします。